第19回福岡臨床研究奨励賞受賞

去る2017年3月30日、東京医科歯科大学医科同窓会の第19回福岡臨床研究奨励賞に特任助教の吉岡耕太郎先生が受賞いたしました。

受賞論文は脳梗塞急性期における発作性心房細動のリスク因子を検討し、独自の発作性心房細動の予測スコア(iPABスコア)を作成してその有用性を示した論文です(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2015;24(10):2263-9)。原因不明の脳梗塞において、その後判明する原因の中で発作性心房細動が最も多く、二次予防となる抗凝固薬が適切に選択されず、誤った抗血小板薬の処方による出血リスクの増大が問題となっています。今回の研究は、石橋哲講師の指導のもと、横浜みなと赤十字病院、国立病院機構災害医療センターの2施設で行われました。iPABスコアの予測能は従来の発作性心房細動の予測方法よりも感度・特異度において上回る結果でした。

今後は脳梗塞患者における発作性心房細動の予測精度の更なる向上に向け、発展研究が計画されています。

Nature Communications掲載のお知らせ

嬉しい報告があります。我々の脳神経病態学分野と東京大学工学部が共同で推進してきた「血液脳関門を通過して効率的に脳内に薬剤を送達する技術」の論文がNature Communicationsに10月17日に掲載され(https://www.nature.com/articles/s41467-017-00952-3)、10月19日に論文のプレスリリースを行いました(http://www.tmd.ac.jp/press-release/20171026_1/index.html)。この論文発表は、10月29日のNHKの「朝のニュース」で放映され、12月7日の毎日新聞の「科学の森」など多くのメディアで大きく取り上げられました(5紙の紙面、20サイト以上のWeb掲載)。

我々の開発したBBB通過型ミセルは、グルコース濃度の変化に応答したBBBに発現するグルコーストランスポーター(Glut-1)の細胞内リサイクリングを利用して、抗体医薬や核酸医薬など従来神経疾患には適応困難であった高分子の脳への送達を初めて可能にした画期的な基盤技術です。抗体医薬の場合は通常は投与量の0.1%程度のところ、本技術を用いれば6%の高効率で脳に送達可能です。臨床的には空腹時に薬剤を注射してその後に食事をするという簡単な方法で脳内に薬やプローブを効率良く運ぶことができます。

さらに、この薬剤送達技術を社会実装するために本学と東京大学の双方発のバイオベンチャー「ブレイゾン・セラピューティクス」が設立され、本学の吉澤靖之学長の出席のもとでこちらもプレスリリースを11月1日に行いました(http://www.tmd.ac.jp/press-release/20171101_1/index.html)。

本研究は、東京大学工学部の片岡一則先生の研究室で開発しているナノテクノロジーを活用したものですが、当分野ではグルコース濃度の変化を利用するという新規の生物学的なBBB通過戦略の立案から、実験遂行、論文執筆に至るまで、5年以上の歳月をかけて桑原宏哉先生を中心に取り組んできたテーマです。医科歯科大と東大工学部の双方がなくしては完成しなかった研究であり、論文も特許も50%ずつの貢献とした正に医工連携の成果です。我々の分野が主体となった研究成果では、ヘテロ核酸技術に続いて2番目のNatureと名がつく記念すべき論文発表で、桑原先生の多大の努力と栄誉を称えたいと思います。

現在、本研究成果に基づき、我々の分野が中心となって、科研費(基盤研究S)による「血液脳関門通過性ヘテロ核酸の開発」や、AMED(融合脳)による「血液脳関門通過型抗アミロイドβオリゴマー抗体の創生によるアルツハイマー病の分子イメージング診断、治療法の開発及び発症メカニズムの解明」といった大型研究を推進しています。難治性脳神経系疾患に対して、核酸医薬や抗体医薬による根本治療に加えて、Aβオリゴマー、リン酸化タウやリン酸化シヌクレインを可視化するPET/SPECT/MRIの脳の分子イメージング開発を放射線医学研究所(現 量子研)と進めており、研究をさらに邁進していきたいと思っています。

横田隆徳