第15回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスで佐野達彦先生が最優秀演題発表賞(基礎部門)を受賞

7月1-3日に仙台で開催された第15回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスで、大学院生の佐野達彦先生が永田哲也先生の指導の下で行った研究「アンチセンス核酸による異常αシヌクレインの伝播抑制」の発表が最優秀演題発表賞(基礎部門)に選ばれ、大会長の武田篤先生より表彰されました。(大阪大学の望月秀樹先生、東京都医学総合研究所の長谷川成人先生との共同研究です。)

本学では阿部圭輔先生、大久保卓哉先生から長年行ってきたシヌクレインのpropagationに関する研究において、永田先生、佐野先生はシヌクレインのpropagationモデル動物を用いて、アンチセンス核酸による異常シヌクレインのプリオン様伝播の抑制効果を検証しました。その有効性の高い投与タイミングや脳の部位効果について検討し、現在進行している核酸医薬によるαシヌクレイノパチーの治療において、この研究結果が今後生かされることが期待されます。

横田隆徳

第62回日本神経学会学術大会で三浦元輝先生が一般演題最優秀ポスター賞(基礎部門)を受賞

5月19日~22日に京都で開催された日本神経学会学術大会で、大学院生の三浦元輝先生が坂上史佳先生、石黒太郎先生の指導の下で行った研究「TDP-43-specific aptamer rescues ALS phenotype in TDP-43 transgenic mice」の発表が一般演題最優秀ポスター賞(基礎部門)に選ばれました。

本研究は水澤英洋先生、石川欽也先生、佐藤望先生らが、脊髄小脳失調症31型(SCA31)の原因として同定したTK2・BEAN1遺伝子の繰り返し配列を含むncRNAが、佐藤望先生によってTDP-43蛋白質と結合することが明らかにされ、石黒先生によってショウジョウバエで見られるTDP-43の凝集と毒性を軽減することが示されました。そこで核酸グループがTDP-43蛋白質と結合して凝集を抑制する新規のタンパク結合性核酸医薬(アプタマー)の配列と分子構造、化学修飾をデザインし、特許出願しました。

本研究ではTDP-43を過剰発現するALSモデルマウスにおいてこのアプタマー核酸を投与することで、症状の改善を認めました。当科の水澤先生の時代の成果が引き継がれて発展した研究結果であり、このアプタマー(ベイト)核酸のALSの根本治療としての発展をさせるべく研究を推進しております。

DNA/DNA2本鎖核酸による効率的な遺伝子抑制を達成

核酸医薬のリーティングでヌシネルセンを開発した米国IONIS Pharmaceuticalsとの共同研究で、DNA/DNA2本鎖を基本とする新規分子構造がアンチセンス核酸の効果を高めることを浅見先生、永田先生、吉岡先生を筆頭著者としてDNA/DNA 2本鎖核酸創生の論文がMolecular Therapy (Impact factor 8.986)に2020年12月7日にオンライン版で発表され(PMID: 33290725, DOI: 10.1016/j.ymthe.2020.10.017)、12月8日に本学からプレスリリースされました (http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20201208-1.pdf)。

我々が開発したDNA/RNAヘテロ二本鎖核酸は従来のアンチセンス核酸と比較して優れた遺伝子抑制効果を発揮することを報告してきましたが、DNA/DNA2本鎖を基本とする構造でもアンチセンス核酸の効果を高めることを示しました。DNA/DNA2本鎖とDNA/RNA2本鎖は化学構造も生物学的機序も異なりますが、この発見によってヘテロ核酸の生物学的機序はより複雑になりますが、分子構造の自由度が飛躍的に高まり、疾患治療の目的にあった設計が可能になりました。我々が開発したヘテロ二本鎖核酸は2本鎖アンチセス核酸としてより広い概念としてその本質が見えてみえてきたように思います。

横田隆徳

2020年11月30日、12月1日に核酸医薬シンポジウム2020が開催されました。

2020年11月30日、12月1日に核酸医薬シンポジウム2020が、医科歯科大学主催で開催されました。この学会は当科で力を入れて研究を進めている核酸医薬の臨床応用を目指すための学会で、薬学、分子生物学、核酸化学、遺伝子工学の基礎研究室や製薬企業も多数参加しています。本来ならば毎年6-7月に年会を行っておりますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2021年に延期となったため、横田が理事長を務めている関係から当科主催でオンラインシンポジウムの形で開催いたしました。結果としては例年の倍に近い1500人以上の参加があり大盛況となりました。吉岡先生、浅見先生をはじめとして主催に尽力いただいた方々に感謝いたします。

なお、この中で、永田先生が「国内初のデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する核酸医薬品ビルトラルセンの開発」で日本核酸医薬学会 学会特別賞を受賞されました。また、吉岡先生が「新規2本鎖核酸による遺伝子制御効果・安全性の向上および生体内核酸分子機構の解明」で日本核酸医薬学会 奨励賞を受賞されました。この受賞の詳細は後日に報告します。

横田隆徳

横手裕明先生が令和2年度日本神経免疫学会研究創世賞優秀賞を受賞

新渡戸記念中野総合病院の主任医長の横手裕明先生が、「多発性硬化症(MS)における脳萎縮と腸管透過性の関連を探索する前向き研究」という研究課題を申請し、令和2年度日本神経免疫学会研究創世賞優秀賞を授与されました。同賞はコスミックコーポレーションの寄付により2014年に設置された賞で、歴代受賞者には中島一郎先生(現・東北医科薬科大学脳神経内科)など第一線でご活躍の先生方が名を連ねておられます。

横手先生が2008年に「腸内細菌」とMSとの関係を初めて報告して以降、「腸内細菌」のMSの発症や病型に関与する可能性が相次いで報告されております。現在の研究の焦点の1つは腸と脳をつなぐブリッジの解明です。そこで、本研究ではそのブリッジのひとつと考えられる「腸管透過性」と、MSバイオマーカーとして確立しつつある「脳萎縮」との関連を前向きに検討しています。今後、MSの病態における腸脳連関の役割の解明が加速されることが期待されます。

横田隆徳

第12回 CBIR/ONSA/大学院セミナー共催 若手インスパイアシンポジウムで浅見裕太郎先生が最優秀ポスター発表賞を受賞

2月12日に東京医科歯科大学で開催された第12回 CBIR/ONSA/大学院セミナー共催 若手インスパイアシンポジウムで、大学院生の浅見裕太郎先生が永田哲也先生、吉岡耕太郎先生と行った研究「DNA/DNA二本鎖核酸によるin vivoでの効率的な遺伝子制御」の発表が最優秀ポスター発表賞に選ばれ、CBIRセンター長の岡澤均教授より賞が授与されました。

我々が開発したDNA/RNAヘテロ二本鎖核酸は従来のアンチセンス核酸と比較して優れた遺伝子抑制効果を発揮することを報告してきましたが、本研究ではDNA/DNA2本鎖(化学修飾はヘテロ)を基本とする構造でもアンチセンス核酸の効果を高めることを示されヘテロ核酸の概念が拡張され、今後の臨床応用が期待されます。同門として浅見先生の受賞を喜びたいと思います。

横田隆徳

第31回日本神経免疫学会学術集会で大谷木正貴先生がYoung Neuroimmunologist Awardを受賞

9月26日~27日に千葉で開催された日本神経免疫学会学術集会で、大学院生の大谷木正貴先生が永田哲也先生の指導、西李依子先生の協力で行った研究「DNA/RNAヘテロ2本鎖核酸によるリンパ球制御を介した神経免疫疾患の新規治療法の開発」の発表がYoung Neuroimmunologist Awardに選ばれ、大会長の桑原聡教授より賞が授与されました。

従来、リンパ球は遺伝子導入効率が極めて低いとされてきましたが、本研究では我々の開発したヘテロ核酸が静脈投与によって末梢血リンパ球をはじめとしたマウスリンパ系組織のリンパ球の高効率な遺伝子制御が可能とする基盤技術になることを明らかにしました。さらにVLA4標的ヘテロ核酸の投与によって多発性硬化症モデルマウスの有意な治療効果を発揮しました。ヘテロ核酸は従来のアンチセンス核酸と比較して優れた遺伝子抑制効果を達成しており、リンパ球の病態が関与する免疫性疾患、神経疾患、がんなど数多くの疾患群の治療に新規の基盤分子技術としてヘテロ核酸の実臨床への応用が期待されます。

「血液脳関門(blood-brain barrier、BBB)を通過してアンチセンス核酸を中枢神経系に送達する新技術の開発」

東京医科歯科大学 神経内科同門会員各位

我々の脳神経病態学分野と大阪大学大学院薬学研究科と徳島文理大学薬学部が共同で推進してきた「血液脳関門(blood-brain barrier、BBB)を通過してアンチセンス核酸を中枢神経系に送達する新技術の開発」の論文が、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System、DDS)の研究領域の中で最もインパクトファクターの高い雑誌であるJournal of Controlled Release(インパクトファクターは7.9です)に2018年5月12日に掲載され(https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2018.05.010)、6月19日に論文のプレスリリースを本学で行いました(http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20180619_2.pdf)。

血液脳関門では、脳微小血管内皮細胞同士をつなぐ密着結合(tight junction、TJ)が大きな障壁となっています。二細胞間の密着結合(bicellular tight junction、bTJ)を制御しても、アンチセンス核酸などの高分子医薬は血液脳関門を通過できないと考えられています。本研究では、最近になってその存在が知られ始めた三つの細胞の角が接する部位の密着結合(tricellualr tight junction、tTJ)を、アンギュビンディン1という蛋白質断片により制御するという新戦略を取り入れました。その結果、静脈注射したアンチセンス核酸が中枢神経系に効率的に送達され、標的RNAの発現が抑制されました。

この研究発表で、銭谷先生は7月29日の第18回遺伝子・デリバリー研究会でベストプレゼンテーション賞を受賞し、9月30日からシアトルで行われるThe 14th Annual Meeting of the Oligonucleotide Therapeutics Societyに向けてTravel Grantを受賞しました。また、䑓藏君は、同じくこの研究発表で、本学脳統合機能研究センター(CBIR)の第9回若手インスパイアシンポジウムで優秀賞口頭発表部門第1位を受賞しました。

我々は血液脳関門通過性ヘテロ核酸と血液脳関門通過型ミセルという2つの基盤技術を開発し、それぞれベンチャー企業を設立して、神経疾患への臨床応用の研究を推進してきました。今回開発した技術は3つ目の血液脳関門通過技術になります。ここに桑原先生、銭谷先生、臺蔵君の多大な努力と栄誉を称えたいと思います(写真は、銭谷先生が第18回遺伝子・デリバリー研究会でベストプレゼンテーション賞を受賞したときのものと、䑓藏君がCBIR第9回若手インスパイアシンポジウムで優秀賞口頭発表部門第1位を受賞したときのもの)。

横田隆徳

細胞質に存在するゲノムDNAの断片が遺伝子発現制御に関わることを発見

同門会員の皆様

少しおくれましたが、うれしいお知らせがあります。

当科の創生した新規の分子技術であるヘテロ核酸は高い細胞内活性がありますが、細胞内で短いDNA断片が遺伝子制御することは偶然とは思えず、内因性の細胞内機構の存在を想定して分子生物学的研究を進めてきました。今回、教室の浅田健特任助教らは、 がんなどの病的状態では知られていたゲノムDNAからのDNA断片の切り出しが、正常状態の細胞においても同様に起こっており、切り出された断片は細胞質に存在することを発見しました。そして、細胞質ゲノムDNA断片は、自身の細胞の遺伝子発現制御に関わることを見出し、さらには、エキソゾームで近隣の細胞に運ばれ、移動先の細胞においても遺伝子発現制御に関わっていることを発見しました。「細胞質に存在するゲノムDNAの断片が遺伝子発現制御に関わることを発見」は革新的な分子生物学的な基礎知見であり、この知見は期待通りヘテロ核酸のさらなる分子デザインに大変役に立っています。この研究成果はScientific Reportsに、2018年2018 年 6 月 に発表され、医科歯科大からプレスリリースされました。

http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20180606_1.pdf

浅田健先生は、CRESTでの特任助教として2年半前から基礎研究者として、我々の若い先生への研究指導を含めて基礎研究を支えてもらってきましたが、この4月から国立がんセンター/理化学研究所の准教授として栄転されました。浅田健先生の栄誉をたたえて、当教室への貢献に感謝したいと思います。

横田隆徳

生体内で血液脳関門の機能を制御するバイオテクノロジーを開発

同門会員各位

嬉しい報告があります。我々の脳神経病態学分野と東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室が共同で推進してきた「生体内で血液脳関門の機能を制御するバイオテクノロジーを開発」の論文がScientific Reportsに3月12日に掲載され(http://www.nature.com/articles/s41598-018-22577-2)、同日に論文のプレスリリースを本学(http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20180313_1.pdf)と日本医療研究開発機構(AMED)(https://www.amed.go.jp/news/release_20180312.html)で行いました。

血液脳関門は様々な脳疾患で治療標的となる場所であり、生体内においてその機能を分子レベルで制御するバイオテクノロジーは医療や創薬の発展に必要ですが、実際に活用されているものは存在しません。我々の研究室では、アンチセンス核酸よりもはるかに高い効果を示し、既存のアンチセンス核酸の作用を汎用的かつ大幅に向上できるヘテロ核酸を開発していますが、本研究では、このヘテロ核酸をマウスの静脈内に投与することにより、血液脳関門の機能を分子レベルで制御することを実現したものです。

本研究は、約4年の歳月をかけて桑原宏哉先生と大学院博士課程(留学生)の宋金東君、大学院修士課程の下浦貴大君を中心に取り組んできたテーマです。血液脳関門の機能評価の実験では、東京大学大学院薬学系研究科の楠原洋之教授のグループにサポートしていただきました。ヘテロ核酸の論文としては、その概念や意義をNature Communicationsに発表して以来の2番目のもので、桑原先生、宋君、下浦君の多大な努力と栄誉を称えたいと思います(写真は下浦君が日本核酸医薬学会第1回年会で優秀発表者賞(川原賞)を受賞したときのもの)。

本研究はAMEDの革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業などの支援のもとで行われたものです。ほとんどの核酸医薬は全身投与では大部分が肝臓に集積しますが、ヘテロ核酸は肝臓以外の臓器・組織、特に神経筋でも有望な結果が出ており、我々は同事業をはじめとした多くの公的なグラントや製薬会社からの支援を受けて、神経筋疾患の治療を目指したヘテロ核酸のさらなる開発に尽力しています。、ヘテロ核酸が臨床現場で使用されるまでさらに邁進していきたいと思っています。

横田隆徳